【放談住宅 2021/12/11】
いや…この話じゃなくて、
もっと違う話を、
あたためていたんだけど、ねぇ。
「シーンの挿入とか、できるの?」
ふと疑問に思ってしまい、
ふっとこの二人と、おかあさんが、
あたしの目の前に、あらわれました。

ま。書きたい話は、おいおい。
「びみょうに、
 18禁かも、知れず」
…そこまでで、ないか。
原稿用紙10枚。

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「なんで……なんで?」
「思い切った、から‼」
 高校の入学式で、碧をはじめて見たとき、ちょっと、かわいいと思った。男の子なんだけど、雰囲気がふわっとしてて、碧なら私のことを、受け止めてくれるんじゃないかって、自分勝手に思った。休み時間に話せるようになって、一緒に帰れるようになって……手をつないでも、振りほどかれなかった。けど、手をつなぐから「先」が、なかった。ゆっくり、なのかなって考えていたけど、初めて手をつないでから一年間、そのままだった。そんな話を、中学校の時の友達、蘭に話したら、押したおしてみな? そう言われた。そんな……って思ったけど、そのとき一緒に、私の頭に碧の笑顔が浮かんだ。そうだ、私からだ。私はそう思って、碧の家へ遊びに来た。そして碧の部屋に入ったとき、制服と……すべてを脱いだ。けど碧は……びっくりして、部屋の隅でちいさくなった。
「なにしても、いいんだよ!」
「壊しちゃいそうで、やだ‼」
 う……。臆病って言うより、いかにも碧が言いそうな言葉だった。いつもやさしい、碧。私を大切にしてくれる、碧。ちょっと勢いが強かったかも知れない。けど‼ 答えが見つからず、私は思ったことをそのまま、口にすることにした。
「さわって、みれば?」
「さわる……」
 碧はゆっくりと、わたしの後ろに来た。そして優しく、抱きついた。
「やわらかい……」
 碧はそう言った。やわらかいのは、碧だよって言おうとしたとき、碧ははずかしそうに、こう言った。
「胸、さわって、いい?」
「いいよ」
 碧は私のバストを、両手で下から持ち上げた。
「こう、なんだ……」
 碧はそう言うと、私から離れて、私が脱ぎ捨てたブラを手にしていた。え、そっち? 私が不思議に思っていると、ふいに部屋のドアがノックされた。
「あ、おかあさん、あの、いま、ちょっと」
 碧の声が小さかったのか、そのままドアが開いてしまった。碧のおかあさんが、飲み物を乗せたトレイを持っていた。
「ちがうんです! なにも、なにも、ないんです‼」
 私はつい、大声を出してしまった。碧のおかあさんは、おどろく様子もなく、笑顔のままだった。
「ふつう男の子が、あわてるのにね。確かに、なにも、なさそう。じゃ、ちょっと休憩したら?」
 碧のおかあさんは、飲み物を乗せたトレイを机に置いた。
「すずしくなるように、冷たいものにしたから」
「おかあさん!」
 碧はいつのまにか、涙目だった。碧のおかあさんは笑顔で手を振って、部屋を出て行った。



「むすべない……」
 小さな子が一人、鏡に向かって、自分の短い髪を結ぼうとしている。結び慣れていないのか、短い髪はその子の手から逃げていくばかりだ。小さな子は真剣に鏡を見つめ、頭の前の方で、小さな髪束を結ぼうとしていた。
「いたいっ!」
 小さな子は、ようやく結びかけた髪束から手を離した。そして、形が崩れている髪束を、大人の女性がそっと触った。
「輪ゴムで結んでるの? 碧」
「わかんない、から……」
「輪ゴムじゃ痛いのよ、髪がゴムに引っかかるから。おかあさんが、結び直していい?」
「いいの?」
「なんで、わるいの?」
「だって……」
 二人がそう言っている間に、小さな子の頭には、小さな髪束が結ばれていた。小さな子の顔が、急にあかるくなった。
「碧がそうしたいのなら、それで、いいの。嬉しいんでしょ?」
「うれしい‼」
「なら、それがいちばん、でしょ?」
「うん……」
 小さな子の表情が、くもり始めた。
「幼稚園で、なにか言われたの?」
「いわれて、ないけど……」
「なにか、感じちゃったのね」
「そう……」
 大人の女性は、ひざを折り、小さな子の瞳を見つめた。そして、こう言った。
「碧がやりたいのなら、それで、いいの。髪をむすびたければ、むすんで、いいの。かわいい服を着たければ、着て、いいの。だれかに見られたくなければ、家の中なら安心でしょ?」
「うん……」
 小さな子の表情は、あかるくならなかった。
「じゃ、いっしょに外へ出る?」
「だいじょうぶ、なの?」
「おかあさんが、いっしょだよ?」
 小さな子はすこし考えたあと、こう言った。
「うん‼」
 そして小さな子の表情は、今日一日、いや、ここ数ヶ月で一番、あかるい表情だった。



「そんなことが、あったんだ」
「うー、恥ずかしい」
 私と碧は、リビングのテーブルで、碧のおかあさんから、この話を聞いた。もちろん私は、制服姿に戻っていた。
「結菜をだましてたみたいで、ずっと言えなかったんだけど……ごめん」
「そんなことない、そんなことない!」
 碧を恋人だって思い込んでいたのは、私の勝手。私には碧をせめる理由がない。
「幼稚園の頃とかは、女の子たちと距離が近かったけど、だんだん距離ができてきちゃって。だから、高校で結菜に出会って、うれしかった。手も。つないでくれた。きっと結菜は、ちがう気持ちなんだろうなって思ってたけど、言えなくて」
「だから、なんだ……碧といっしょにいると、すごく安心するし、すごく楽しい。碧が私を大切にしているって、いつも感じてた。そして、うれしかった」
「結菜……これからも一緒に、いてくれる?」
「私も碧を、失いたくない」
 碧のおかあさんが、紅茶の入ったカップを置く音がした。私も碧もはっとして、下を向いてしまった。
「あら。お邪魔かしら?」
 私も碧も下を向いたまま、首を横に振った。そして碧のおかあさんは、こう言った。
「お友達とか、恋人とか。決めなくて、いいんじゃない?」
「決めない?」
 碧がふしぎそうに、声の方を見つめた。
「碧は、結菜ちゃんが大切で、いっしょにいたいんでしょ?」
「いたい……」
 碧は下を向いて、そう言った。
「結菜ちゃんも、碧が大切で、いっしょにいたいんでしょ?」
「そう、です……」
 つい私も、下を向いてしまった。言葉で聞くと、すごく恥ずかしかった。
「なら、二人がいっしょにいる理由は、もう充分じゃない?」
 私は碧を見つめた。碧も私を見つめていた。
「そう……だよね」
「そう……ですよね」
 一緒にいたい。それだけで、いいんだ。
「考えすぎてた、かな」
「僕は、言えなすぎてた、かな」
 碧が笑った。いつもの、碧だった。



「ねぇ? この話、ひみつなんでしょ?」
「んー……そこまで、考えてない」
 近くの駅まで、碧が送ってくれることになった。
「高校に来て、知ってる人が、いなくなっちゃったんだよね。僕の、こういう話」
「中学までは?」
「みんな知ってたし、特になにも、なかった」
「んー。私からは、言わない」
「結菜がそうするなら、僕も賛成」
 そして二人で、街灯の下を歩いていた。突然、碧があわてたように、私を見た。
「失恋……させちゃった?」
 碧の顔は、今にも泣き出しそうだった。私は思わず、吹き出した。
「決めないんでしょ? そういうの」
「そう……だった」
 碧が手を出した。私は碧の手をにぎった。その手は、いつもの碧の、手だった。そして手を握ったまま、街灯の下を、駅へ向かって歩いて行った。
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『書かないと、ダメだなぁ』
にがわらい。

(474号)