いやー、
「すっきりしない」から
ボツってたのよ。
…ピッコロの演奏動画で
音域の確認取れたから、
えーい恥かくなら今だーっ!
…原稿用紙6枚。なかなか5枚にならない。


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 古川先輩が、各パートに譜面を配っていた。私たちフルートのところに来た時に、鈴子先輩に言った。
「ピッコロ持ち替えでお願いします」
「えーっ、この曲ピッコロあるのー?」
 …ピッコロってなんだろう。名前だけは聞いたことあるけど。
「あたしピッコロはムリ。美香にあげる」
「えー、私この曲はファースト吹きたい」
『じゃ、じゃーんけ…』
 先輩二人の動きが止まった。そして二人とも、私を見ている。
「…いた。ね、美香」
「そういえば、ピッコロなしの曲が続いたから、ピッコロ出す機会なかったね」
「よーし、さっそく挑戦してもらおう」
 鈴子先輩は楽器庫へ行くと、小さな楽器ケースを持ってきた。中には、黒くてフルートをすごく小さくしたような楽器が入っていた。鈴子先輩は楽器を組み立てると、机の上に置いてあったチューナーの電源を入れて、チューニングを始めた。
「鈴子、なんだかんだ言って音出るじゃん」
「高音ニガテなんだって」
 そして鈴子先輩はにっこり笑うと、「はい」とその楽器を私に手渡した。
「これって何ですか?」
「それがピッコロ。吹き方も指使いもフルートと同じって思っていい。試しに吹いてみてよ」
「なにごとも挑戦、挑戦」
 鈴子先輩と美香先輩に見つめられて、うーと思ったけど、こうなったら引けない。小さくて構えずらい。えい、どうにでもなれ!
「すー」
 鈴子先輩が私の正面に来て言った。
「一発目はやっぱり音出ないか」
「鈴子、先輩二人が見つめてれば、緊張して音出ないって」
 美香先輩はかばんから鏡を出すと、机に置いた。そして、
「ムリしなくていいから。大丈夫、音出るって。鏡で研究してみて。じゃ鈴子、ファーストについて落ち着いて相談しましょ」
 鈴子先輩と美香先輩が落ち着いて相談、と言い始めたときは『お互いに譲らないぞ』ということみたい。前もヒートアップして、まわりの先輩たちが止めに入ったっけ。
 さて。渡されたピッコロを手の中でもてあそんでいた。鏡で研究、か。私は鏡の前でピッコロを構えると、もう一度吹いてみた。
「すー」
 やっぱり音出ない。角度かなぁ。息のスピードかなぁ。小さくて構えづらい。…えーい、思い切ってみよう!
「ぴー」
 びっくりした。ものすごくびっくりした。ピッコロから、いきなり音が出た。鈴子先輩と美香先輩は、『相談』を中断して私のところに来た。
「もう一度、やってみて」
 鈴子先輩はすごく真剣な顔で言った。私は、思い切ってもう一度吹いてみた。
「ぴー」
「一オクターブ下をイメージしてみて!」
「ぽー」
 鈴子先輩と美香先輩は、私の顔をじぃっと見つめた。鈴子先輩が口を開いた。
「美香、第二オクターブから出たよね、音」
「出た。第一オクターブに下がることもできた」
「指使いを第一オクターブのレにして、最後に音を出した時をイメージして音出ししてみて」
 鈴子先輩に言われるがままに音を出した。
「ぽー」
「音階、上がってみて。Dのスケールで」
 レーミーファーソーラーシードーレーと音が出せた。すかさず鈴子先輩が言った。
「そのままもう一オクターブ上がってみて!」
 レーミーファーソーラーシードーレー
「第三オクターブ!フルートと指おんなじ!」
 レーミーファーソーラー…あれ、音出ない。あれ?と思って顔を上げると、鈴子先輩と美香先輩がお互いを見つめあっていた。
「正直に言う。美香、この子私より音域広い」
「曲になるかは練習しだいだけど、こんなに身近にピッコロ奏者がいたとはね」
 それって、私のこと…?と思っていると、鈴子先輩が隅にPic.と書かれた譜面を私に差し出した。そして、
「協力してくれるよね、美香」
「この子がピッコロ吹いてくれれば、私がフルートのファースト、鈴子がセカンドでぴったり。一緒にがんばろうね!」
 美香先輩が私の肩をぽんっ、と叩いた。いろいろうまくいったみたいだけど、何かの夢みたい。目覚まし時計は鳴らないよね。生まれて初めてのピッコロ。よし、うまくいった!ほっぺつねりたいけど、先輩に笑われそうだから、やめておいた。