「友情・仲間」

書きながら、
「登場人物が勝手に動く」
って感じだった。特に後半。
狙っていた話じゃないけど、
いざ赤を持っても、
「直す」って感じじゃなかった。
…原稿用紙6枚
だけど今回は、あえて
一枚自分に余裕を与えたって感じ。

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 放課後、「ちょっと一休みしよう」って言われて、先輩二人と一緒に中庭に出た。鈴子先輩が、お茶を買ってきてくれた。私は前から聞いてみたいことを、鈴子先輩にぶつけてみた。
「鈴子先輩が吹奏楽を始めたときって、どうだったのかな、って。…教えてもらえますか?」
「私の話?」
 鈴子先輩はきょとんとしていた。そしてしばらくまっすぐ前を見つめた後、話し始めてくれた。
「私は…。高校デビューだし、最初音も全然鳴らなかったし、最初はダメだって思ってた。美香がいなかったら、たぶん辞めてた」
 美香先輩は何も言わずに、やっぱりまっすぐ前を見ていた。鈴子先輩が続けた。
「ふいに美香が誘ってくれたの。部活が終わった後、お茶しようって。そして駅前のファーストフードで、初めて美香と仲良くなったの」
「きっかけがなかったのよね」美香先輩が続いた。
「鈴子と仲良くなるきっかけが。どう話していいんだかわかんなかったし。だから、思い切って声をかけた、ってわけ」
「あの時は…私が一方的に泣いてた、って感じだった。寂しかったし、自信もなかったし。やっと話ができると思ったら、涙が止まらなかった。ね、美香」
「その時の鈴子は、まるで私の中学時代を見ているみたいで、こっちもつらかった。私の中学時代に欠けているものって何かな、って思ったとき、『友だち』って思った。だから思い切って、鈴子を誘った」
「美香先輩の中学時代?」
「私の話はまたにするとして。鈴子の話を知りたいんでしょ? …きっかけがあったら、私の中学時代も話すから。だから鈴子、話してあげて」
「音も鳴らないし、教えてくれる先輩も部活になかなか来ないし。正直美香がまぶしくてしかたなかった。音も鳴るし、曲も吹けるし。…正直、話なんかしてくれないだろうな、って思ってた。私みたいなでき損ないに、ってね。そしたらお茶に誘ってくれた。…話してみたら、私が悩んでいたことみーんな経験してた。私ひとりじゃないって思ったら、涙が止まらなかった」
 美香先輩が、鈴子先輩に言った。
「あの時の握手、覚えてる?」
「絶対わすれない。美香の方から、お友だちになりましょうって、手を出してくれた」
「私はあの時、少し怖かったんだ。鈴子が心を閉ざしちゃったらどうしよう、って。鈴子がぼろぼろ泣きながら、握手をしてくれた。なんか一緒になって泣いちゃったんだよね、あの時」
「二人でぼろぼろ、泣けるだけね。でも泣いたあと、すごくすっきりした。だから、私からもういちど美香に、『お友だちになってください』って手を出した」
「そこで私と鈴子は握手をした。そして、今の二人ってわけ」
 美香先輩が話し終わった後、鈴子先輩は少しだけ鼻をすすった。そして、
「だから二人で決めたんだよね。後輩が入ってきたら、絶対に仲良くしようって。…いざ後輩が入ってきたら、人なつっこいし、いつもそばにいてくれるし。あなたとは自然と、仲良くなった。それはきっと、美香も一緒。ね?」
「色々と教えてあげたいことはいっぱいあるけど、絶対に同じ目線でいようって。鈴子や私のように、寂しい、つらい思いは絶対させないって。…仲良しごっこって言われてもいいや、って。そしたら、あなたには素質があった。何より、すぐ音が出た。仲良くならない理由なんて、ないじゃない?」
 私は入部してからのことを思い出した。
「だから…」
 いつも鈴子先輩が引っ張ってくれて、うしろで美香先輩が、あたたかく笑っていてくれた。クラスメイトから聞いていた先輩後輩って言うより、友だち?ううん、『仲間』って言ったほうがいいかも。私がつらいときは、先輩二人が必ずそばにいた。寂しくなんてなかった。できれば、ずっと一緒にいたいって思うようになった。私は立ち上がると、先輩二人に言った。
「これからも、よろしくお願いします」
 鈴子先輩と美香先輩は一瞬顔を合わせると、かけ寄って、両側から抱きしめてくれた。
「ねぇ美香、あらためて言おう。『入部おめでとう』」
「『入部おめでとう』 鈴子と、私と、あなた。…一緒にいてくれる?」
「もちろんです」
 ふいに涙が出た。すごく心はあったかいのに。不安なんてどこにもないのに。何だろう…
「うれしい、です」
 私がそうつぶやくと、二人ともぎゅっと私を抱きしめてくれた。
「私たちも、うれしい。ね、美香」
「うれしい。ね、鈴子」
 空には、春から夏に変わるぞと、大きな雲が流れていた。青空は、ものすごく青かった。