スピーカーのテストで、
室内楽のシシリエンヌを
聞いていたら浮かんだ。
…原稿用紙6枚。
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 定期演奏会も終わった吹奏楽部は、みんなのんびりとしていた。もちろん、楽器の練習をしている子もいたけど、お菓子を食べながらおしゃべりしている子たちもいた。
 ふとトランペットの三年、小林先輩がこちらに来た。背が高くて、ベリーショートの髪型。ボーイッシュでさっぱりしているので、みんなに人気がある。バレンタインにはファンからチョコレートがいっぱい届くんだよ、と鈴子先輩が昔教えてくれた。
「美香、久しぶりにやろうよ」
 小林先輩は、美香先輩に声をかけた。
「小林先輩とできるのって、もう残りわずかですからね。やりましょうか」
 私は、何をするのかな?と思っていると、二人は音楽室の後ろの方のピアノへ向かって行った。そして、小林先輩がピアノに向かうと、
「美香、いい?」
 と合図をして、ピアノを弾き始めた。美香先輩は、伴奏に合わせてフルートを吹き始めた。…息ぴったりに伴奏と演奏が合っている。
「フォーレのシシリエンヌ、って曲だよ」
 鈴子先輩が耳打ちしてくれた。いつのまにか小林先輩と美香先輩のまわりに和ができていた。ピアノを演奏する小林先輩も、フルートを演奏する美香先輩も、すごく楽しそうだ。
そして美香先輩らしい、芯があるけど優しい第一オクターブのD の音で曲が終わった。突然の演奏会に、先輩二人の周りに集まった部員みんなはいつのまにか拍手をしていた。小林先輩はピアノの鍵盤のふたを閉じると
「…おしまい!」
 と言った。美香先輩が小林先輩に言った。
「小林先輩、辻坂さんをきちんと紹介で着てなかったですよね。中庭で休憩しませんか?」
「舞由ちゃん、でしょ?そういえば機会なかったね」
 小林先輩、鈴子先輩、美香先輩と私で、中庭で休憩を取ることにした。とつぜん鈴子先輩が私の肩をつかむと、小林先輩の方へ向けた。
「私たちフルートの希望の星、辻坂舞由ちゃんです」
「あらためまして。私は三年の小林初枝」
 そういって小林先輩は右手を差し出した。私も右手を出して握手をした。小林先輩の手は暖かだった。
「あの曲を美香と初めて演奏してから、もう二年か」
 小林先輩が言った。…二年?まだ美香先輩は入学していないはず。すると美香先輩が言った。
「学校見学のとき、私が楽器を持って押しかけたんですよね」
「あの時は本当に部員が少なかったからね。せめて何か演奏しようって、シシリエンヌを一緒に演奏したんだよね」
 小林先輩がなつかしそうに言った。そういえば三年生の数が少ないとは思っていたけど、そんなに少なかったんだ。受験とかいろいろあるのかな?位にしか思ってなかった。小林先輩はベンチに座って言った。
「鈴子や美香たち、今の二年生がいっぱい入ってくれた時は嬉しかったな。やっと吹奏楽部らしいことができるってね」
「でも」美香先輩が言った。
「学校見学の時、『シシリエンヌ吹ける?』って言われたとき、すごく嬉しかったですよ?まさかピアノ伴奏で吹けるなんて思ってなかったですし」
「私が卒業したら、シシリエンヌも思い出になっちゃうのかな」
 小林先輩は少し寂しそう。するとふいに鈴子先輩が言った。
「小林先輩、あとで私のピアノの練習、つきあってくれませんか?」
 そういえば、小林先輩と鈴子先輩はよくピアノを一緒に弾いていた。
「いいけど…校歌の練習でもするの?」
「違いますよ小林先輩。…私に教えてください、シシリエンヌ。そして」
 鈴子先輩は私を見ると、こう言った。
「舞由も協力してくれるよね。フルート演奏」
 美香先輩が続いた。
「そこは私がしっかり教えるから。…吹奏楽部のフルートに伝わるシシリエンヌ、舞由に託したいの。そんなに難しくないから、だいじょうぶ」
「私たちの代で一回切れてるけどね。三年にフルートいなかったから。でもそうかぁ。私が卒業してもシシリエンヌは続けてくれるのか」
 小林先輩が言った。私はさっきの演奏を思い出していた。ピアノとフルートが一緒になって、すごく素敵だった。でも、私ができるかな…?
「美香と舞由ちゃんのシシリエンヌも、きっとステキになりそうね」
 小林先輩が言った。美香先輩が続いた。
「小林先輩が卒業するまでに、仕上げます。ね、舞由、鈴子?」
「が、がんばります!」
 私は言った。鈴子先輩が続いた。
「私はだいぶ仕上がってるんだけどなー」
「鈴子、いつのまに練習してたの?」
 小林先輩が聞いた。
「家でこっそり。…私も小林先輩にあこがれてたから」
「てた、なんだ」
 小林先輩がいたずらっぽく言った。鈴子先輩はあわてて、
「あげ足取りですよー、小林先輩!」
 と言った。そして私は、美香先輩みたいに演奏できたらいいな、と思った。