今日、
「マジでヒマだった」のと、
「ハタコトレイン」騒動で、
思いついた。らくがき。
…直接投稿画面に打ってるので、
原稿用紙換算、はナシ!

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「ふぅー」
ただのペットボトルのお茶が、こんなに美味しいとは。
火曜日。午前10時。

 第一営業部。
 幸い。部下に恵まれ、お客様に恵まれ。
 今期は、非常に業績も良い。
 管理職としては、これほど喜ばしいことはないだろう。
 何より、平和が一番。そう実感していたところだった。

「部長!」
「うわぁ!」
 突然、開発二課の中堅、富山が目の前にいた。「中堅」と言っても、社歴としては、既にかなりの出世をしていてもおかしくはない。切れる技術と人柄の良さ。富山には何度も、出世の話が出た。しかし富山の答えは決まっていた。
「課長以上は、嫌です。時間外手当つかなくなりますから。モチベーション保てないです」
 そう言われてしまうと、会社としては引くしかなかった。我が社として一番手痛いのは、「富山を失うこと」だった。安心して任せることができる。そして必ず、結果を出してくる。その『戦績』こそが、富山、そして我が社の武器だからだ。…その富山が、プロジェクトを無事終わらせ、しばらく本社にいる。という話は、昨日の定例会議で開発部から聞いたところだった。
「富山じゃないか。何だ?突然?」
「ロープレしましょう!」
 ロープレ?言葉の意味は簡単だ。「ロールプレイング」、仮想の設定の上で、本番を想定した訓練だ。主に営業サイドでは、顧客対応を想定したロープレを行う。実際に私も、部下のロープレの相手を何度もしている。システム営業は、形が見えないものを売る。片輪が技術であれば、もう片輪は話術、と言うこともできる。ロープレの顧客役は、相手の一挙手一投足を見ながら、一つ先を確実に読む。そして相手からの「球」に変化をつけ、投げ返す。高度な、頭脳を使ったキャッチボールだ。野球選手が基礎を怠らないように、有能な営業マンは「自分に何が欠けているのか」を追求する。ロープレから、客先への上司同行から、私なりのフィードバックを必ず返す。そこから「勝てる」営業マンが育つ。…しかし。富山は開発のエンジニアだ。営業マンではない。彼は、何をしたいのだ?
「藪から棒に。なにの、ロープレをするんだ?」
「客先同行するエンジニアとしての、理想の姿を、追及しましょう!」
「お、おう…」
 富山は確かにできる男だが…理想も追求する。理想を理想のままにしておかない。恐らく、生まれついてのエンジニアなのだろう。
「本社でくすぶっているのなら。何でも、します!」
 そこへ、別の男がやって来た。
「いやぁ、ウチの富山が。ご迷惑を。回収に来ました」
「課長!」
「はい。戻る。戻る。…プロジェクトの谷間で暇なのはわかる。ただ、他部署に迷惑はかけるな」
 開発二課長は、そう言うと富山の首根っこをつかんで歩き出した。しぶしぶ、という感じで、富山も歩き出した。


「はぁー」
技術もある。人柄も良い。それだけに…

 開発二課。
 二年越しの大規模案件が、無事終了した。
 この課の課長になって、初めての成果だ。
 お客様から、社長名での感謝状まで頂いた。
 会社あてと…「富山あて」の、二枚も。
 そこに…内線が鳴った。

「はい、開発二課」
「第一営業部の私だ」
「いやぁ、先ほどは失礼しました」
「いやいや。彼は決して失礼ではないよ。…突然だったがな。なぜ富山が空いた?」
「それが…アサインしていた案件が、その…」
「あ…」
 気まずい。そうとしか言いようがない。営業マターに開発は口出ししない。そこがこの会社の暗黙のルールだ。そして富山が本社にいる理由は…あと一歩、と言うところで本丸の案件を取り損ねたからだ。この件については、営業を責めることはできない。まさかあのタイミングで、発注元の役員が「内製」という言葉を言うとは…
「富山は…ウチで何とかします」
「彼は、どんな仕事でもするはずだ。それも喜んで」
「わかっては。いるんですが」
「次は…もうすぐ『現像』されるから、待ってくれ」
 そう言って電話が切れた。

「おい、富山はどこへ行った」
「書庫へ行くと言ってましたが」
 嫌な予感がする。私はあわてて内線をかけた。
「はーい、総務でーす」
 堅物の総務課長が…軽い。
「やーなに?今夜軽く?なんなら今から行く?すごいねぇ富山君って。総務の仕事かたっぱしから片付けて行っちゃった。派遣さんお茶引いてるんだけどさー、雑用ないかなー?」
「…この埋め合わせは。必ず」
 私はそっと受話器を置いた。

「かちょ、要は『仕事』があればいいんスよね?」
「課長、とはっきり言いなさい」
 部下の羽田が来た。ある意味では富山と対極と言えるだろう。技術力はいまいちだが、とにかく口が上手い。開発二課では、何かと衝突しやすい営業サイドとの橋渡しを一手に引き受けている。
「内線、借りヤすねー」
 羽田が私の席の電話を、まるでおもちゃのように操作した。
「あ、どもども富山さん。ちょっと相談あるんスけど。いいスか?了解っす!」
 がちゃん、と羽田が電話を置いた。しばらくすると、富山が帰ってきた。
「あー富山さん。お疲れッス!これー、まだ取れてないんスけどー、富山さんならどう考えるかなって」
「レポート、ってことか?」
「あーそんな粒度こまかくなくていいスよー!ざっくりで!まだ取れるかわかんないスから!」
「気になる点がいくつかあるな。借りていいか?」
「もちろんスよ!富山さんならわかる、と思って!」
「エンドは?」
「そこまででないッスよ!まーでも。『なるはや』で」
「わかった」
 受け取った書類を読みながら、富山が自席に戻っていった。慌てて私は、羽田を呼び寄せ、机に隠れるように小声で話した。
「お前、勝手にアサインするなよ!」
「大丈夫ッスよ!」
「富山が手をかけた、ってことは、富山が担当する、ってことになるんだぞ!」
「かちょ。…あれ、絶対に、取れないから」
「どういうことだ?」
「だってあれ。『失注』した案件、ッスから」
 私は真っ青になって、口をぱくぱくとしか動かせなかった。羽田は自分のスマホを私に見せた。
「ちゃんとほら。『失注』までの筋書き、完璧ッスから!あとは日付入れるだけッスよ!好きな日付を!」
 羽田はぱっと立ち上がると私に言った。
「じゃ。営業と『この件』、揉んで来るんで。長くなりそうッスね。行ってきヤす!」
 …羽田は堂々と「さぼってくる」と私に言ったも同然だ。しかし、私は何も言えない。富山を見ると、難しい顔をしてパソコンに向かっている。確かに、羽田の筋書きを使えば、当面富山への仕事はある。頃合いを見計らって失注を伝えれば、「取れないかも」と明言している以上、富山は何も言わないだろう。富山のさっぱりとした性格を、逆手に取った見事な手さばきだ。私は富山の「光」と、羽田の「闇」を同時に見た気がする。そう思った途端、胃のあたりに重い痛みを感じた。

 軽やかな昼休みのチャイムが、社内に響いていた。