何か、時間早いし、
「浮かんだ」んで、
『久々に、書いてみて、いい?』

細かいこと、決めずに、
「ゆるっ」と、書きます。

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「このベンチでさぁ…ずっと、おしゃべりできそうな、気がしてたんだけど。ね」
「私もです。この桜の木の下で」
「桜、散った後、また毛虫だよ?」
 私は笑い飛ばそうとしたけど、この子の表情は変わらなかった。

 二人でここでおしゃべりするようになったのは、いつからだろう。実は良く覚えていない。気づいたら二人で座っていた。特に約束した訳でもないのに、このベンチに来ると、なぜかこの子がいた。一学年下ってわかるまで、実は何か月もかかった。学年の違いなんて、小さなこと。そう思わせるくらい、このベンチとこの子は、私にとって、自然な存在だった。
 そして、気が付かなかった。一学年違うということは、私が先に、卒業しなければならないことを。それに気づくと、卒業が怖くて、卒業の話は私からはしなかった。それをこの子も感じていたのか、この子も卒業の話はしなかった。けど、時間は必ず過ぎてしまう。そして今日、卒業式が終わった。
 卒業式が終わった後、騒がしいクラスには目もくれず、急いでこのベンチに来た。そしてやっぱり、この子がいた。私がベンチに来た時、この子は私の目を見ると、すぐに目を伏せてしまった。そして私は後悔した。私の怖さだけで、卒業の話ができなかった。この子は私の怖さの犠牲になって、今日突然、私との別れになってしまう。思い切って卒業の話をしていたら、お互いに少しづつ、心構えができたはずなのに。自分の子どものようなわがままが、すごく恨めしく感じた。
「なんか…ごめん。私のせいだよね。急に、今日までってなっちゃって」
「そんなこと、ないです。覚悟は、してましたから」
「覚悟ができてなかったのは、私か。できなかったんだよね。壊すのが、怖くて」
「ずっと、先輩に甘えていたかったのに…」
 私は、この子にどう声をかけていいのか、わからなかった。しばらく二人で、だまってベンチに座っていた。沈黙を破ったのは、この子のほうだ。
「でも…先輩がいなければ、学校、やめてたかも知れないです」
「そんなに?」
「友だちもいないし、学校に来ても、ひとりぼっちだし。どうしようかなぁって思って、ここに座ったんです。そして気づいたら、先輩がいたんです」
「何か、もっと話、聞いてあげれば良かったね。私の話ばっかりしちゃった気がする」
「そんなこと、ないです。先輩は、私を見捨てませんでしたから」
「見捨てるなんて…」
「だって…必ずここに、いて下さったから」
 偶然もあるだろう。何か、見えないつながりもあっただろう。いつも二人で、ここにいた。けど、ここで会う約束は、一度もしたことがなかった。ここに来れば、必ず会える。そう思っていただけなのに、いつも、二人でいた。
「私はただ、自分が楽になれるから、ここに来てた。それだけだよ?」
「それが、良かったんです。だって、私はただ甘えていれば、良かっただけでしたから」
「そうだったら、すごく甘えるのが上手。私は甘えられてるなんて、思ってなかったよ?」
「そうでしたか?」
「なんかさ。友達とか、部活の先輩後輩とか、そういう形がある関係じゃなくてさ。ただ、ベンチでおしゃべりしているだけ。正直、妹に甘えられるのは苦手だけど、ここで嫌だと思ったことは、一度もなかった。もし、私に甘えていたんだったら、すごく自然だし、すごく優しい。だって、私の方が楽しかったから」
「優しいなんて、言われたこと、ないです」
「じゃ、私が言う。ずっと優しくしてくれて、ありがとう」
「先輩…」
「私、強がっちゃうからさ。そんなに素直じゃないんだ。けど、優しかったのは本当。じゃなきゃ、ここには来なかった。知らないうちに、私も甘えてたんだね。お互い、ちょっと素直じゃなかったかも知れないけどさ。気づいたら、お互いに甘えてたなんて、素敵じゃん」
「そうですね」
「もっと早く気づけば良かったけど。今日になっちゃった。けど何だろう。暖かい、って言うのかな。そんな気持ち。やっぱり、良かった。ありがとう」
「私も。先輩、ありがとうございます」

「四月から、ここは一人になっちゃうんですね」
「実はそれ、ずっと言ってなかったんだけど。たぶん、大丈夫。私には見えるんだ。私が卒業した後、ここに座る誰かが。同じ学年かもしれないし、後輩かもしれないし。そこまではわかんないんだけど、必ずここに、座る人がいるはず。だから、大丈夫」
「そうなん、ですか?」
「だって。一度も約束したことない二人が、ここでずっと一緒だったんだから。この場所には、何かあるのかも知れないね。自然と甘えられる相手に、出会える何かが。信じられないかも知れないけどさ」
「そう言われれば…そうですね。先輩の言うこと、信じていいですか?」
「私が、信じられるのなら」
 そう言って私は、この子に向かって、いたずらっぽく笑った。
「なら、信じます」
 そう言うとこの子も、笑った。すごく柔らかくて、暖かい笑顔だった。

「先輩、最後にわがまま、お願いしてもいいですか?」
「何?」
「…そのスカーフ、良かったらでいいんです。私に、もし良かったら、欲しいな、って」
「これ?」
 私はセーラー服からスカーフを外した。
「自分のスカーフ、外してくれる?そしたら…」
 私はこの子の首にスカーフを巻いて、胸元で結んだ。向かい合わせで結んだから、少し結び目が崩れたけど、ふしぎとこの子に似合ってた。
「ありがとうございます。まさか、本当になるなんて」
「私はもう明日からは、結ばないからね」
「今日が来るの、怖かったけど、夢でもあったんです。もし、先輩がわがまま、聞いてくれたらって。けど、断られたら。それが怖くて、私も今日のこと、言えなかったんです」
「私が三年間使ったスカーフだけど、それで良ければ」
「先輩の三年間に、守られてる気がします」
「ただの、古いスカーフだよ」
 そして二人で、また笑った。いっぱいおしゃべりしたと思ってたのに、今日初めて知ったこと、いっぱいあった。私は桜の木を見ながら、この子に聞こえないように小さな声で、「さようなら」と、言った。
(26号)