えー。
「王子の狐」の噺は、皆さんご存じの噺かと、思います。
ご存じない方に、軽く、くだりを。
えー。
王子稲荷に、「人を化かす」狐が、江戸の頃に、いたそうです。
ある男が、悪い考えを、起こしました。
「狐を、化かして、やれ」
まんまと、狐に化かされたフリをいたしまして、大宴会をします。
大宴会しましたから、勘定がある訳です。
その勘定を、まんまと酔った狐に、押し付けたまま。男は帰りました。
そして狐は、かわいそうなことに。店で狐とばれまして。叩き出されまして。ほうぼうの体で、洞穴へ帰ったそうです。
そのころ男は、狐は執念深いと聞いて怖くなり、狐のもとに、手土産を持って、詫びに行きます。子狐が手土産を開けますと、美味しそうなぼた餅があります。
「かあちゃん!旨そうだよ!食べていいかい!」
「いけないよ!!馬の糞かもしれない!!」
この噺が、王子の狐でございます。

えー。
昭和の頃。すっかり時が流れまして、王子のあたりも、すっかり変わりました。いっぱい走っていた都電も、「荒川線」を残して、すっかり姿を消しました。そこで王子の狐が、ふと、目を覚まします。
「あら…あら…あら!!」
王子の狐は、「稲荷神」と、なっていたのです。神様ですから、余計な身体はありません。自由に空を飛んでも、洞穴に帰っても、いいのです。稲荷神となった狐は、天高く飛んでみます。すると、どこからか、自分の話が聞こえる気がします。
「あのいまいましい話を、子どもがしているようだねぇ」
高い所から見まわしてみますと、どうやらその声は、小梅村の小学校から聞こえるようです。狐はすいーっと、小梅村へ飛んでいきます。小学校の教室を見ますと、男の子が落語家気取りで、「王子の狐」を噺しています。狐はしばらく、その噺を聞いてやることにしました。粗削りですが、見事話が落ちました。子どもたちが手をたたいて、喜んでいます。そしてその男の子は、きちんと三つ指をついて、頭を下げています。
「あの男より、礼儀正しいじゃないの。噺もー。言いたいことはあるけど、子どもだから。よくやった。気に入った。よし…化かしてやるよ。そらっ!」
稲荷神となった狐は、その子どもを気に入って、その子を化かしたようです。しかし、稲荷神が化かしましたから、その子はまったく気づいていません。その子は化かされて、どんな大人数の前に立っても、物怖じせず、話ができるようになりました。そして、小学校でも、中学校でも、全校生徒の前に立って、楽しく人を笑わせる。そういうことができる子どもになりました。

えー。
時は令和になりまして、子どももすっかり、歳を取りました。頭は見る影もなく、はげています。はげた男は、ふと子どもの頃を思い出します。
「そういやぁ、王子の狐の話を、小学校でやったんだっけな」
男は懐かしく、子どもの頃を思い出します。そしてふと、気が付きます。
「あの後、どんな大人数の前に立っても、物怖じしなくなったのは…まさか。狐が化かした?」
王子で気持ちよく寝ていた、稲荷神の狐は、ふと目を覚まします。子どもが大人になって、化かされたことに気づいてしまいました。昔を思い出すと、男を化かした時、男が化かされたふりをして、狐はさんざんな目に合ったのです。稲荷神となった狐は、すっかり怖くなります。…神様なんですが、ね。
しかし、その男。江戸っ子気取りのようです。暇を見て、扇屋で卵焼きを買って、王子稲荷、狐のもとへ手土産を持って行くことを思いつきます。

えー。
この噺、リアルタイムなんです。男が扇屋の卵焼きを買って、王子稲荷へ手土産として持って行くところを、思いついた時が、今なんです。どんな未来が待っているのか。

それは、このブログで、お話しします。ゆっくりと、待っていてください。そしてリアルタイムですから、仮想の噺家であるあたしも、姿を消さにゃなりません。
お名残り惜しゅうございますが、この言葉をあっしは皆さんに、言わなければなりません。そういう定なのです。では!三つ指を立てまして…

『おあとがよろしい、ようで』