えー。
『無粋』では、ございますが。
軽く「粋」の解説などを。

「羽織の裏」って、ありますね。
羽織とは、長着の上に着る、
今でいう「上着」です。
羽織には、「羽裏」という、
裏地があります。
ここに、『見事な手間をかける』
のが、江戸っ子でございます。
羽裏は、羽織を脱ぎ着する時にしか、
見えるもんじゃー、ござんせん。
その、一瞬の見え方に『凝る』のが、
江戸っ子でございます。
『お!粋なの着てるじゃねーか!』
そう「言われる」のが、
江戸っ子の楽しみでございます。

あっしも、一回、
やろうとしたんですよ。
高島屋でもってね?
見事な!粋な羽裏。
日本橋を描いた、見事な羽裏。
「これを、紬に合わせたら、粋だなぁ…」
紬と言うのは、普段着です。
決して、お召や小紋などの、
今でいうフォーマルな着物では
ござんせん。
『普段着の裏に、あえて凝る』のが
江戸っ子と言う「生き物」で、ございます。

なぜ、こういう文化が、生まれたか。
江戸と言うのは、
「お武家さん」の町です。
…表向きは、そうなんです。
お武家さんったら、町人には、
刃向かうことが、できません。
切捨御免でもって、
ばさーっ!と、お武家さんにやられても、
何も。言えません。
しかし。
…江戸のお武家さん、貧乏だったんです。
こそっと町人や商人に、
金を借りるなどは、日常のこと。
お武家さん、本来は、日常のもの。
お醤油であるとか、お塩であるとか。
そういうものは、「困らない」というのが、
表向きの姿でございます。
しかし。…貧乏ですから、
夜中にほっかむりして、
お醤油を「買いに」行くのです。
醤油屋も「わかって」ますから、ね?
夜中にすこーしだけ、木戸を開けておいて、
お武家さんをこそっと、迎える。
『武士は食わねど高楊枝』
これ、江戸では当たり前だったんです。

しかし、町人は、
お武家さんを「立てなければ」いけない
立場ですから。ね?
上方みたいに、目立った贅沢は、
決して、できません。
上方はいいのです。商人の町ですから。
しかし江戸は、武家の町。
町人が、表立った贅沢は、できません。
実際に、お触れでもって、
『羽二重禁止』が、出てます。
羽二重たぁ、絹の織物では、
そうとうに上質なものです。
これを、商人はこそっと、
下着、襦袢にしていたのです。
しかしこれでは、お武家さんが立ちません。
ですので、お触れでもって、
『羽二重禁止』となった訳です。

「江戸の物」には、
小さいもの。小さくて凝ったもの。
こういうものが多いというのは、
ご存じの方はご存じの話。
これも、結局は、
お武家さんを立てるため、なんです。
町人が、お武家さんより、
「立派なもの」を持っていたら、
お武家さん、困っちゃいますよね?
そこで、です。
町人や商人が持てるものは、
お触れでもって、どんどん
「小さく」させられました。
しかしそこはー。江戸っ子。
『小さきゃいいんだろ?小さきゃ』
そうして、小さくても、
非常に細工が凝ったもの。
こういうものが、江戸の文化として、
出来上がっていった訳でございます。

始めの「羽織の裏」に、戻りますと。
町人や商人には、
「羽織の表」で、遊ぶことは、できません。
お触れどおりに、地味なものでもって、
誂えなければ、なりません。
しかしです。そこはー。江戸っ子ですから、
『裏ならいいんだろ?裏なら。
 見えりゃーしねぇんだから』
こうして「裏に凝る」文化が
出来上がっていった訳でございます。

この。
「表向きは、お武家さん」
「実際には、町人・商人」
これは江戸の者では、当たり前のこと。
しかし、真実を言う訳には、行きません。
…ばさーっとやられますからね、
お武家さんに。
天下泰平、江戸の頃は、長かったですから。
時が下るにつれて、裏に凝る文化は、
『粋』という概念でもって、
出来上がっていった訳でございます。
表には出さない。裏に凝る。
学があっても、馬鹿なフリをする。
…江戸っ子と言うものは、
そういう「生き物」なんです。

えー。しかしー…
こうして『粋を論ずる』ことは、
非常に野暮なこと。みっともないこと。
…ということに、なってます。
あっしも実際、こうして話してますと、
心の片隅に、
「野暮な話だなぁ…」などと、
つい。思ってしまいます。
なので、『粋』は、江戸っ子じゃない者には、
非常に、わかりづらい。
この『わかりづらい、もの』が、
わかるか、どうか。
これでもって、
「江戸っ子か、どうか」を、
瞬時に「わかって、しまう」
それも、江戸っ子でございます。

あっしが今、
一番、江戸っ子らしい、粋な人。
一人、教えて欲しいと言われましたら。
浅草の寿町の、柘製作所。
たばこのパイプでもって、
世界中に有名な工場でございます。
ここの旦那。柘恭三郎さん。
この人は、江戸っ子です。
生粋の、江戸っ子です。
江戸っ子ですがー、
江戸っ子以外にも、非常に、優しい。
人が「できた」方でございます。
ご興味がございましたら、
インターネットなどでお調べいただくか、
運が良いと。浅草の街で出会えます。
この方が、あまりに粋なもんですから。
あっしは浅草でパイプをくわえるなんざ、
おそろしくて、できません。

えー。野暮なことを、いたしましたが。
野暮な江戸っ子が、賢く振舞ったと、
笑って頂きまして。
あっしの話は、このへんで。


…よけいな、こと。
コレ、「書ける」人って、
実は、相当に、「少ない」よ?
「江戸っ子」で、かつ、
「話が上手くない」と、
できないこと、だからね。
…などと、野暮なことは、
小さな字で、書いておきます。