【放談住宅 2021/06/10】
「ゆうべ、何も思いつかなくて、
 えっれー苦しんだんだけど、さ。
 『なんだ、これがあるわ』と」
「お酒…を?」
「きっぱりとやめるのは、
 いかがでしょうか…的な、おはなし。
 まー、アルコール依存症の話」
「ほー。まじめな話?」
「あたしがするから、わかりません」
「いきなり、暗雲」

「まぁ、まぁ。
 お酒をたしなまれる方、ね。
 いらっしゃると思うんですよ、ね。
 お酒飲むのが、
 月に1~3回という方は、
 まず、
 アルコール依存症じゃないんで、
 ここから先は、話半分に。
 …ま、週になんべんか、という方、
 けっこういらっしゃると、
 思うんですよね」
「まぁまぁ。一般的やね」
「では。…だいじょうぶ、なの?と、
 一回、お試ししてみましょう。
 『1週間。
  完全に、一滴もアルコールを
  飲まないで見て、ください』」
「1週間やったら…
 あ。いや。人によっては、怪しいわな」
「もし。
 1週間、完全にアルコールを
 断てなかったら。
 …アルコール依存上の疑いが、
 非常に高いと、思います。
 個人的には、『もう、ダメ』と
 思うけど、ね」
「ちょっ!厳しい!」
「いや。
 お酒飲みたいという、欲求。
 業界では『飲酒欲求』と、言います。
 1週間、お酒飲まないって、
 自分で決めました。決めたはずです。
 しかし。現実問題として、
 飲酒欲求が、勝っちゃった。
 …行動が、制御できないって
 ことに、なるよね」
「あ。案外、真面目な話や」

「ま。久里浜式とか、
 アルコール依存症のテストは
 いろいろ、あるんですが。
 ごく簡単な、『CAGE』というものを。
 1. 飲酒量を減らさなければと
  感じたことがありますか?
 2. 人から飲酒を非難されて
  気に障ったことがありますか?
 3. 自分の飲酒に
  後ろめたさを感じたことがありますか?
 4. 神経を落ち着かせたり、
  二日酔いを治すために
  迎え酒をしたことがありますか?」
「ふん…
 酒飲みは、
 案外あてはまるんちゃうん?」
「2項目以上、あてはまったら、
 『アルコール依存症の可能性あり
  …です』」
「そうなん?
 ヤバいの、ぎょうさん、おるやんか!!」
「ま。あくまでごく簡単なテスト、なので。
 『依存症扱っている』精神科に、
 いっぺん、行ってみるのも
 いいかも知れません。
 …違うかも、知れない。
 ソレを決めるのは、あくまで、
 精神科医、ですから」

「ま。あたしは、
 押しも押されぬ、
 アルコール依存症ですので。
 身体のどこを押しても、引いても、
 アルコール依存症」
「自分は、まーったく、酒飲まへんの?」
「まったく。一滴も。
 断酒した日を、覚えてないから、
 どのくらいだか、わかんないんだけどー。
 …5年は確実に、飲んでないかな」
「飲んだらアカン、と、
 歯ぁくいしばっとるん?」
「…いや?
 『お酒を飲む』ということ自体、
 もう、忘れちゃっているので。
 なーんにも、考えてません。
 これが、案外、いいの!
 一番大きいのが、
 『ムダなお金、使わない』
 家飲みしたって、
 千円くらいは、かかるでしょ?
 月に20日、家飲みしたら、
 …2万円、だよ?」
「うーん…
 無駄金使こうて、身体こわして、
 エエことない。…確かに」
「が。がっ!!
 自分の意思で、お酒を止められないから、
 『アルコール依存症』なんです!
 立派な、病気!!
 意志が弱いとか、不真面目とか、
 そういう問題じゃ、ないんです!
 病気なんです、病気!!
 …病気なので、治療したら、
 回復する可能性が、あります」
「回復…え?治らへんの?」
「アルコール依存症は、
 一回診断されたが、最後。
 『一生、治りません』
 ただし、治療をきちんと受ければ、
 回復する人は、回復します。
 …あたしも、紆余曲折、あったー」

「今は『アルコール依存症』と
 言うことになってるんだけど、ね?
 実際、アルコール依存症者の中では、
 アル中、アル中って言うので。
 …以降、めんどくさいから、
 アル中で、いい?」
「ま。ご自由に」
「まぁ、ね?アル中が、ね?
 アル中だって、診断されて、
 はい、そうですか。って、
 酒が止まる訳がない。
 それで酒が止まったら、
 久里浜医療センターは、いらないっ!」
「く…くりはま?」
「『アル中の東大』と言われる、病院です。
 昔は久里浜病院と言ったんだけど。
 初めて、アルコール依存症が、
 『治療、できた』…と、
 言えるかも知れないです」

「もし、仮に、や。
 『治療する』となったら、
 どのくらい、かかるもんなん?」
「まー…一概には、言えないけど。
 入院で、だいたい3ヶ月。
 外来デイケアだとー…年単位」
「厳しいのぉー」
「しかし。
 治療をやめた、とたんに、
 酒飲んじゃって、
 元の木阿弥…ということ、
 非常に多いです。
 なので、『回転ドア』とか
 言われます」
「回転ドア?」
「治療終わって、出て行った。
 あっさり酒飲んで、止まらなくなって
 戻ってきた。
 よくある、よくあるー」

「治療せんと…どうなるん?」
「『脳が、縮む』
 …いや、ほんとうに。
 あたしも実際、
 若干、縮んでます。
 『若干』で食い止めれば、
 まー、普段の生活には
 困らない程度には、なります。
 …それこそ、
 『外資系金融機関で、働く』
 ことも、できます…と」
「進んでまうと?」
「…リアル廃人に、なるよね。
 いるいる。いーっぱい、いる。
 …そして、死ぬ。
 アルコール依存症に限らず、
 依存症は、「死ぬ」から
 怖いん、ですっ!!
 …死ぬとわかってて、
 止められないのも、
 依存症だけど、ね」

「だから、
 アルコール依存症の診断を、
 受けていても、受けていなくても。
 元を絶つ…つまり、
 『お酒を、やめてしまう』
 そしたら、それ以上は、
 悪くならないから、ね。
 会社で宴会があっても、
 身体壊したことにしておいて、
 ウーロン茶飲んでいれば、
 なーんにも、言われないよ!
 …怖い話、していい?」
「…どんなん?」
「アルコール依存症の、
 平均死亡年齢。
 …だいたい、52歳」
「うわー…死んでまうんや」
「ただ、この平均死亡年齢は、
 『平均のマジック』が
 あって、ね。
 若年層で、ばたばた死んでるから、
 それで平均年齢、
 下げちゃっているんだけど、ね。
 実際、治療に成功した人は、
 えらい長生きするパターン、
 けっこう、多いです。
 …けど、ね。
 実際親父は、56歳?で、死んだね。
 再飲酒して」

「いつでも、死と、となりあわせ。
 それが、アルコール依存症。
 …けど、ね。
 きちんと治療して、
 断酒が続いている方は、
 案外、こう言うよ、ね。
 『アル中に、なって、良かった』
 …と」
「…なんで?」
「びっくりするくらい、
 『生きやすく』なるから、ね。
 実際、あたしもデイケアには、
 酒が止まった状態で、
 行ったんだけど、さ。
 …行って、良かったよ?
 部屋も、片付いた。
 生活習慣、まともに、なった。
 そして、あそこのデイケアは、
 『ここで、やって行ければ、
  それこそ、刑務所だろうと、
  どこだろうと、
  やって行ける!!』と、
 良く、言います。
 実際、そうだと思う。
 断酒の道に、入ってしまえば、
 するーっと、
 ラクに生きられるんだけど、
 …それが、すごく、難しい。
 『たかだか』アルコールなのに、ね」

「ま。
 20歳以上であれば、
 アルコールは、『合法』ですから。
 逆に言えば。
 …飲むも、やめるも、ご自由に。
 けど、さ。
 『やめられなくなってから、
  やめる』ことは、
 すごく、大変だから。
 いいことないし、
 お酒自体、やめちゃったら?
 …という、おはなし。
 ま。たまには、
 怖い話を一席…みたいな、もん。
 『あたしは』
 酒やめて、ラクになったけど、ね」
「うーん…せやかてー…」
「うん。
 簡単には、決められないと思う。
 まぁ。
 『知ってるか、知らないか』
 だけでも、
 大きな違いだと、思います」
(400号)