えー。
三代続けば江戸っ子と良く申しますが。
江戸の長屋と言うのは、親・子・孫と仲良く暮らすほど、広くはありません。畳にして三畳。江戸間ですから小さい畳です。そこに行李、物入れですな。今でいうところの折コン。…いや、さっき裏に運送屋さんがいたもんですから。とにかく物入れがひとつ。そこに着物やら一切合切を入れまして、そして布団が一組。三畳に、行李が一つ、布団が一組。それが長屋に住む江戸っ子の全財産。ですから国に帰るも、江戸に戻るも自由。そして国に帰って江戸に戻ったことを、とがめる江戸っ子はいません。皆、そうしてますから。出入り自由と言うのが、江戸の良い所でございます。
「あいつ。最近見ねぇけど。どうしたんだ?」
「あいつって…どいつだ?」
「ほら、あの…ちょっと女遊びが悪いー、あいつ」
「あーーーーーー。
ありゃあダメだ。もう江戸にはいねぇ」
「江戸にいねぇって…どういうこった?」
「行李担いで…国に帰った」
「あーーーーーー。
しょうがねぇなぁ。長屋の払いもできてなかったって、表の旦那が嘆いてた。そうかぁ。国に帰ったかぁ。ま、親御さんに叱られりゃ、心を入れ替え…入れ替え…られりゃ、国には帰んねぇな。とにかく、ちったぁましになって、また江戸に戻って来るだろう」
「じゃ!そこの弁天様に、あいつが江戸に戻ってこれるよう、お願いしようじゃねぇか」
「ちょ、ちょ、ちょ。弁天様はー。いけねぇ」
「なんだよ。そこの弁天様は霊験あらたかって、前のご隠居から聞いたぞ?あのご隠居は、嘘はでぇっきらいだぞ?あれこそ江戸っ子だぞ?」
「だから、だよ。弁天様はー…美人だろ?」
「あ!そいつはうっかりした。…お前さん、学あるなぁ」
「学なんてもんじゃねぇよ。ちょっと思いついただけだ。この辺でお頼みするところったら…弁天様だな。困ったな」
「俺も思いつかねぇ。浅草の観音様へ行ったら、日が暮れちまう」
「日が暮れちまうかー…そうだよ。日だよ。お天道様。良くはわからねぇが、神様のあまてらす…あまてらす…なんとかってのは、お天道様だろ?」
「やっぱりお前さん、学あるじゃねぇか。お天道様にお祈りするたぁ、学がなきゃ思いつかねぇ」
「思い立ったが吉日だ。拝もうじゃねぇか。表へ出て…ぱんぱん、だぞ。ぱんぱん」
「ぱんぱん、な。わかった」
『ぱん、ぱん』
『えー、あいつが無事に、江戸に戻って、来れますように』
「…えー、お天道様。これは無理なお願いかも知れねぇが…あいつに所帯を持たせてやっておくれ」
「所帯…どういうことだ?」
「お前そりゃー、所帯を持てば。あっちも落ち着くだろうよ。そして長屋で仲良く暮らすだろうよ」
「あー。さすがだ。俺には思いつかねぇ。じゃ、俺もお頼みするか。ぱんぱん、あいつに所帯をもたせてやっておくれ、お天道様…っと」
「じゃ、戻って…そろそろ締めるか」
「そうだな。そうするか」
「さて。お前さん、仕事はどうだい?」
「さーっぱりだ。宵越しの銭も、宵を越さねぇ銭も持てねぇ。お前さん、商いは?」
「最近は息子にやらせてるんだがなぁ…心配で心配で。おっかねぇよ」
「ま。今は悪い病が流行ってるみたいだから。それが過ぎりゃー、お互いに」
「そしたら、ちっといい店に行って、あいつも加えて、一席やるか」
「そうだな。ま、それには早いから、な。なによりあいつが、江戸に戻ってこなきゃできねぇことだ」
「それまで…待ってやるか。袖振り合うも他生の縁。こうして…酒飲んだ仲だからな」
「お前さんの商いも、上手くいくことを願ってるよ」
「俺も、お前さんの仕事が上手くいくこと、願ってるよ」
「じゃ。元気でな」
「お互い、な」
こうして、江戸っ子と言うものは、さっと会っては、さっと別れるものです。
さてー…今ー…私が困ってます。オチが見当たりません。お客さん、その辺に落ちてませんか?ありませんか。ま、仕方のないこと。下手な話につきあってくださった、皆様に感謝申し上げまして。私もさっと、高座から降りたいかとおもいます。さっとです、さっと。では…
おあとが、よろしいようで。
…。
「まさか。
丸っきり頭から、噺っぽいものが、
作れるとは、思ってなかった」
風呂で思いついた。
女遊び…国に帰る…弁天様…お天道様、と。
こういうのを、繰り返して…繰り返して。
そのうちに、噺として、成り立つように、
きちんと「落とせる」練習をして。
いつか…下手でいいから、
くすっと笑ってもらえる、
噺が作れりゃー、いいな。うん。
三代続けば江戸っ子と良く申しますが。
江戸の長屋と言うのは、親・子・孫と仲良く暮らすほど、広くはありません。畳にして三畳。江戸間ですから小さい畳です。そこに行李、物入れですな。今でいうところの折コン。…いや、さっき裏に運送屋さんがいたもんですから。とにかく物入れがひとつ。そこに着物やら一切合切を入れまして、そして布団が一組。三畳に、行李が一つ、布団が一組。それが長屋に住む江戸っ子の全財産。ですから国に帰るも、江戸に戻るも自由。そして国に帰って江戸に戻ったことを、とがめる江戸っ子はいません。皆、そうしてますから。出入り自由と言うのが、江戸の良い所でございます。
「あいつ。最近見ねぇけど。どうしたんだ?」
「あいつって…どいつだ?」
「ほら、あの…ちょっと女遊びが悪いー、あいつ」
「あーーーーーー。
ありゃあダメだ。もう江戸にはいねぇ」
「江戸にいねぇって…どういうこった?」
「行李担いで…国に帰った」
「あーーーーーー。
しょうがねぇなぁ。長屋の払いもできてなかったって、表の旦那が嘆いてた。そうかぁ。国に帰ったかぁ。ま、親御さんに叱られりゃ、心を入れ替え…入れ替え…られりゃ、国には帰んねぇな。とにかく、ちったぁましになって、また江戸に戻って来るだろう」
「じゃ!そこの弁天様に、あいつが江戸に戻ってこれるよう、お願いしようじゃねぇか」
「ちょ、ちょ、ちょ。弁天様はー。いけねぇ」
「なんだよ。そこの弁天様は霊験あらたかって、前のご隠居から聞いたぞ?あのご隠居は、嘘はでぇっきらいだぞ?あれこそ江戸っ子だぞ?」
「だから、だよ。弁天様はー…美人だろ?」
「あ!そいつはうっかりした。…お前さん、学あるなぁ」
「学なんてもんじゃねぇよ。ちょっと思いついただけだ。この辺でお頼みするところったら…弁天様だな。困ったな」
「俺も思いつかねぇ。浅草の観音様へ行ったら、日が暮れちまう」
「日が暮れちまうかー…そうだよ。日だよ。お天道様。良くはわからねぇが、神様のあまてらす…あまてらす…なんとかってのは、お天道様だろ?」
「やっぱりお前さん、学あるじゃねぇか。お天道様にお祈りするたぁ、学がなきゃ思いつかねぇ」
「思い立ったが吉日だ。拝もうじゃねぇか。表へ出て…ぱんぱん、だぞ。ぱんぱん」
「ぱんぱん、な。わかった」
『ぱん、ぱん』
『えー、あいつが無事に、江戸に戻って、来れますように』
「…えー、お天道様。これは無理なお願いかも知れねぇが…あいつに所帯を持たせてやっておくれ」
「所帯…どういうことだ?」
「お前そりゃー、所帯を持てば。あっちも落ち着くだろうよ。そして長屋で仲良く暮らすだろうよ」
「あー。さすがだ。俺には思いつかねぇ。じゃ、俺もお頼みするか。ぱんぱん、あいつに所帯をもたせてやっておくれ、お天道様…っと」
「じゃ、戻って…そろそろ締めるか」
「そうだな。そうするか」
「さて。お前さん、仕事はどうだい?」
「さーっぱりだ。宵越しの銭も、宵を越さねぇ銭も持てねぇ。お前さん、商いは?」
「最近は息子にやらせてるんだがなぁ…心配で心配で。おっかねぇよ」
「ま。今は悪い病が流行ってるみたいだから。それが過ぎりゃー、お互いに」
「そしたら、ちっといい店に行って、あいつも加えて、一席やるか」
「そうだな。ま、それには早いから、な。なによりあいつが、江戸に戻ってこなきゃできねぇことだ」
「それまで…待ってやるか。袖振り合うも他生の縁。こうして…酒飲んだ仲だからな」
「お前さんの商いも、上手くいくことを願ってるよ」
「俺も、お前さんの仕事が上手くいくこと、願ってるよ」
「じゃ。元気でな」
「お互い、な」
こうして、江戸っ子と言うものは、さっと会っては、さっと別れるものです。
さてー…今ー…私が困ってます。オチが見当たりません。お客さん、その辺に落ちてませんか?ありませんか。ま、仕方のないこと。下手な話につきあってくださった、皆様に感謝申し上げまして。私もさっと、高座から降りたいかとおもいます。さっとです、さっと。では…
おあとが、よろしいようで。
…。
「まさか。
丸っきり頭から、噺っぽいものが、
作れるとは、思ってなかった」
風呂で思いついた。
女遊び…国に帰る…弁天様…お天道様、と。
こういうのを、繰り返して…繰り返して。
そのうちに、噺として、成り立つように、
きちんと「落とせる」練習をして。
いつか…下手でいいから、
くすっと笑ってもらえる、
噺が作れりゃー、いいな。うん。